「運行なぜ続けた・・・」 三重・長島町コースター
事故前2週間 ボルト折れ連続発生
◆樹脂製軸、設計ミスか
米の製造元 合併で事情聞けず
「ごう音と揺れを全身に感じたあの数秒間は、死を覚悟した」。三重県長島町の「ナガシマスパーランド」で先月二十三日、ジェットコースター「スチールドラゴン」の車輪が脱落、二人が重傷を負った事故で、事故車両に乗っていた福井市の男子大学生(19)は、恐怖をこう語った。今月六日には米国・ディズニーランドでもジェットコースターが脱線し、十一人が死傷した。スチールドラゴンの事故は構造上の欠陥が原因だった可能性が高まり、ギネスブックにも載った世界最大級のジェットコースターは今も止まったままだ。(川井竜太、梶浦健太郎)
事故を起こした車両は、次々に車輪を落としながら二百メートル以上暴走して、停止した。
スチールドラゴンの場合は、六個の車輪が「ブロケット」と呼ばれる部品で束ねられ、ブロケットが車体とつながっているが、県警はこれまでの調べで、もっとも負荷のかかる上りの左カーブで、車体とつなぐボルト十二本すべてが折れ、先頭車両の右最前部のブロケットが最初に脱落したと断定した。
百五十キロ以上の高速で走行するジェットコースターで、高い強度が必要なはずのボルトがなぜ折れたのか。遊戯施設の検査資格を持つ専門家は、その理由として、一対の側輪、下輪をそれぞれ金属軸で固定していないスチールドラゴンの構造を挙げる。
ジェットコースターは急な下り坂やカーブを走り抜けるため、車両がレールから跳び上がったり、脱輪しないように「跳び上がり止め」という装置が付いている。スチールドラゴンの場合は、車体の下に走行車輪があり、レールを横から押さえる側輪と下から押さえる下輪が、跳び上がり止めの機能を果たしていた。
問題視されているのは、この側輪と下輪が金属製の軸で固定されず、ウレタン樹脂製の軸でブロケットを押さえ込ませ、緩衝材の役割を持たせていた点。専門家は「スチールドラゴンは特に高速で走行するため、ブロケットも車輪も頑丈で重く作られていた。それなのに下輪などを金属軸で固定していなければ、ボルト部には相当な力が加わったはず」と話し、設計ミスの可能性も指摘する。
スチールドラゴンの運行を続けた判断に問題がなかったのかということも、原因究明と並行して、三重県警の捜査の焦点となっている。
毎日、開園前に行われていた点検では、事故前の二週間で三回も、ボルトが折れているのが確認されたが、その都度、十二本すべてのボルトを交換するだけで運行していた。
ナガシマスパーランドを運営する長島観光開発は「ふだんでも一か月に一本ぐらいは折れる」と説明しつつ、これほど短い間に連続して異常があったのは初めてだったとも認める。にもかかわらず、同社では「試運転して問題がなければ運行する」として、運行を続けていた。異常の原因を突き止めず運行を続けた結果、事故を招いたという印象はぬぐえない。
県警幹部は「理由を特定するまで、運行休止などの処置はとれなかったのか。何のための点検かわからない」と話しており、別の捜査員も「会社の刑事責任を問えるかどうかは別にしても、防ぐことができた事故ではないのかという思いは払しょくできない」という。
三年前に運転を始めたばかりの施設最大の目玉。時期が書き入れ時の夏休みのさなかということが、運行続行の判断に影響を与えなかったのか――。
スチールドラゴンを製造した米国の「モーガン社」は吸収合併され、現在は「チャンス・モーガン社」という別会社になっている。県警は同社からも事情を聞こうとしているが、「モーガン社はなくなっており、詳細を聞かれてもわからない」という答えしか返ってこないという。
三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットに併設された遊園地など、スチールドラゴンと似た構造になっているジェットコースターはほかにもあり、全国の関係者が捜査の行方を注視している。
◆TDLは運行再開
米カリフォルニア州のディズニーランドでの脱線死傷事故を受け、運行を見合わせていた千葉県浦安市の東京ディズニーランド(TDL)のジェットコースター「ビッグサンダー・マウンテン」が七日、運行を再開した。
TDLを運営するオリエンタルランドによると、緊急点検の結果、安全性に問題はなかったため、運行を再開できると判断した。
同社では事故を受け、六日の開園時から運行を中止。TDLの場合、車両などは日本で製造されているうえ、部品や運転システムも異なっており、米国と同様の事故につながる可能性はないことが分かった。
YOMIURI
ONLINE 中部発より
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